腹膜透析療法~患者さんに優しい末期腎不全医療~
内科(腎臓) 池田 直子
我が国では糖尿病やメタボリック症候群といった生活習慣病罹患者の増加や人口高齢化が進み、その結果生じる臓器障害の一つとして慢性腎臓病(CKD)という病態が注目されるようになりました。CKD患者さんに対しては、原疾患の治療を行いながら食事療法や血圧調節を行って腎機能温存を試みますが、それでも腎機能が悪化して末期腎不全に至った場合、多くの患者さんが人工透析療法を選択することとなります。
人工透析療法には血液透析(HD)と腹膜透析(PD)の2つの方法があります。平成23年末の日本透析医学会統計では、約30万人の人工透析患者のうち96.3%がHDを行い、PDを行っている患者さんは3.2%です。世界的にはPD患者の占める割合は15%と言われており、日本におけるPD普及率は世界水準を下回る状況となっています。そこで、ここでは皆さんにあまり知られていないPD療法について、ご紹介させていただきます。
HDはダイアライザーという人工透析膜を介して透析を行うのに対し、PDは患者さん自身の腹膜を介して透析を行います。ですから、腹腔内にカテーテルという専用の管を留置し、その管からPD用の透析液を注排液するようにします。1回の注液量は体格に応じて1.5L~2L程度で、腹腔内に数時間貯留してから排液することにより体液が浄化されます。注排液は朝昼夕食時と就寝前の4回行うのが標準的ですが、患者さんのライフスタイルに合わせて、自動腹膜還流装置を用いて夜間睡眠中に注排液を行う方法を選択することもあります。HDは週3回各々4時間の透析を行うために、必ず透析施設に通院しなければなりませんが、PDは1回の注排液に費やす時間は30分程度であり、通院は月1~2回ですので、HDと比べて患者さんに自由な時間をより多く確保することが可能です。
PDは注排液を行いながらも、基本的には24時間ゆっくりと透析を続けている状態ですので、HDよりも患者さんの体に対する負担は少なくなります。実際、残腎機能といって、末期腎不全に至っても人工透析導入前は殆どの患者さんで尿量がある程度維持されていますが、HDでは導入後概ね1年以内に無尿(腎死)となる方が多いのに対し、PDでは導入後1年経過しても利尿が得られている方が多くみられており、PDは患者さんの体に優しい医療であると考えられます。残腎機能を長く維持することは生命予後に良い影響を及ぼすことが分かっており、最近では”PDファースト”という考え方(先ずはPDで人工透析を開始し、数年後に残腎機能が低下してきた時点で、PD+HD併用ないしはHDへ移行する)が推奨されるようになってきました。
現在、当院では年間1~2例程度のPD導入を行っており、人工透析室にて外来経過観察を行っております。PDは、患者さんのライフスタイルが尊重され、体への負担が少ない人工透析療法です。また、PDではK制限をしなくて良いので、食生活においても患者さんに優しい医療であると思います。今後もPDを選択される患者様一人一人の生活を大切に考えながら、診療を続けてまいります。
~感染対策チームからのお知らせ~
今年の冬も、ノロウイルスやインフルエンザなどの様々な感染症が流行しました。
感染対策の基本「手洗い」「咳エチケット」をおこない、感染から身を守りましょう。
感染対策の基本
基本(1)咳エチケット
咳が出るときはティッシュで口や鼻を押さえるか、マスクをつけます。 ティッシュを捨てたあとは、手洗いをしましょう。
基本(2)手洗い トイレの後、食事の前、帰宅後、調理の前は、念入りに洗いましょう。 手洗いは流水で石けんを使って、洗い残しが無いように念入りに洗います。 手洗い後は清潔なタオルやペーパータオルなどで手を拭きます。
流行時期の対策
- 人ごみを避けましょう。
- 十分な栄養と睡眠をとり、体力や抵抗力を落とさないようにしましょう。
- インフルエンザや感染性胃腸炎など、流行する病気と診断された場合、回復するまで外出を控えましょう。
- 入院患者さんへの不要不急の面会はお控えください。
県立宮崎病院では、医師・薬剤師・検査技師・看護師・放射線技師・栄養士・事務などで「感染対策チーム」を構成し、感染対策をおこなっております。
病棟紹介
8東病棟
がん治療センター8階東病棟は消化器外科、呼吸器外科、乳腺外科を主体とした周術期のがん患者さまの治療を行っている病棟です。
総病床数46床で、スタッフは医師12名、看護師24名、ナースエイド5名、クラーク1名で構成されています。年間400名ほどの全身麻酔手術が行われていますが、最近は腹腔鏡や胸腔鏡を使った手術が多くなっています。また県内では唯一腎臓移植手術も行なっています。
最近の外科手術は以前に比べると身体の負担が少なくなっており、入院期間も短くなっていますので患者・家族の皆様に、安全で安心できる適切な医療・看護が提供できるようスタッフ一同努力しております。入退院が多く病棟内の移動も頻繁にある慌ただしい印象の病棟ですが、患者さまもスタッフも活気ある元気な病棟です。
また、患者支援の一環として、ストーマ患者会・乳がん患者会・乳がんサロン会を患者さまと共同で開催し、多くのことを患者さまから学ばせていただいています。
9東病棟
呼吸器・腎臓疾患、膠原病、糖尿病、感染症を中心とした内科病棟です。
ベッド数46床、医師8名、看護師24名、ナースエイド5名、クラーク1名のスタッフです。宮崎県の中核病院としての役割を担うとともに、患者さん・ご家族の思いを大切にしながら安全・安心な医療が提供できるよう毎日取り組んでいます。9階は最上階の病棟ということもあり、面会ホール・病室から眺める大淀川・天満橋の風景に癒されています。
私達スタッフも、普段からコミュニケーションを大切にし、忙しい時でも相手を思う気持ちと笑顔を忘れない明るい病棟です。今後も専門的な新しい知識を学びながら、その知識を現場で生かしていきたいと思います。
診療科紹介
臨床工学科
県立宮崎病院臨床工学科は現在、科長(内科医長)である医師1名と5名の臨床工学技士が所属しています。
当院の臨床工学科は平成22年4月に配置され、まだまだできたばかりの新しい部署で、スタッフの平均年齢も31.8歳と若く、活気あふれる職場です。
臨床工学技士とは医師の指示のもと生命維持管理装置の操作、保守管理を業とする専門的な職種です。
現在の医療においては様々な医療機器が使用され、様々な治療が行われています。
それらの高度医療を支える医療機器が安全にかつ正確に患者様に使用されるよう、日々業務を行っています。
実際の業務としては、
- 心臓の手術を行う際に使用される人工心肺装置の操作
- 単純血漿交換などの特殊な血液浄化療法における装置の操作
- 人工呼吸器の保守点検
- 心臓カテーテル室業務
- ペースメーカープログラマーの操作
- 院内で使用される全ての医療機器のトラブル発生時の対応などを行っています。
患者様と接する機会は他職種と比べて少ないですが、チーム医療の一員として様々な治療に関わっています。
これからも、より良い医療提供のためスタッフ一丸となり努力していきたいと思います。
リハビリテーション科
リハビリテーション(以下リハビリ)科は、現在PT4名、OT1名、ST1名、助手1名、クラーク1名で、主に入院患者様を中心に、リハビリ業務を行っています。
対象となる疾患は脳血管疾患や整形疾患が多いですが、最近では呼吸器や心臓血管疾患、癌に対するリハビリにも取り組んでいます。
宮崎病院は、急性期医療の中核施設として位置づけられており、私たちリハビリスタッフも、その目的と役割をしっかりと受け止め、患者様の回復のために日々努力を続けております。早期離床を促しながら、高次脳機能障害、摂食・嚥下障害へも積極的にアプローチしています。
今後も患者様に満足いただける、質の高いリハビリの提供を行っていきます。
エキスパートナースご紹介
がん看護専門看護師 藤井 和実
がんの患者さんそしてご家族の身体・心・社会的な悩みや痛みが少しでも和らぐよう、がん治療センターを中心に活動しています。他のスタッフと一緒に「その人らしさ」を大切にしたケアを提供していきたいと思います。
糖尿病看護認定看護師 赤峰 洋子
糖尿病の治療は、患者さんが自分で行うセルフケアが中心となります。糖尿病看護認定看護師として、長い療養生活を送る患者さん一人ひとりの生活に沿い、セルフケア継続のお手伝いをしたいと思っています。
がん性疼痛看護認定看護師 髙橋 裕子
がん患者さんやそのご家族の「全人的な痛み」を受け止め、より効果的に症状が軽減するように、鎮痛薬などの薬物療法やマッサージなどの非薬物療法をその人に合わせて併用し、「痛み」の緩和に努めます。
救急看護認定看護師 本村 理恵
循環器センターに勤務しています。救急看護の領域は幅広く、患者は時や場所を選ばず急変します。患者の状態を判断し急激な状態変化に即応した救命技術を実践し、危機状況にある患者家族への精神面の看護援助を行っていきたいと思います。
摂食・嚥下障害看護認定看護師 山崎 美代
摂食・嚥下障害とは、飲食する能力が障害された状態をいいます。患者様に嚥下スクリーニングテストや検査を行い、個々に合わせた食事方法や訓練を提供し、肺炎予防や肺炎の早期発見に努めます。
医療リンパドレナージセラピスト 髙野 順子
主に乳腺・婦人科の手術後に起こる浮腫(=リンパ浮腫)のケアを行っています。患者様がセルフケアを行えるように、またリンパ浮腫が発症しても不安にならないように関わらせていただいております。
看護学生臨地実習を行っています!
県立宮崎病院は、研修病院として県立看護大学や看護専門学校など6校の看護学生の臨地実習を年間約750名受けいれています。ともに看護の原点を学びながら、看護職の育成を行っています。(実習期間は下表参照)
厚生労働省の【新人看護職員研修ガイドライン】に沿った研修体制を整え、看護に関する実務研修、体験研修、専門職の研修等も受け入れともに学んでいます。
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
県立看護大 | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | |
日南学園田野看護専攻科 | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ||
宮崎看護専門学校 | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | |||||
鵬翔高校衛生看護専攻科 | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ||||
九州保健福祉医療専門学校 | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ||||||||
日南看護専門学校 | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ | ☆ |
医学用語 「病院の言葉をわかりやすく」
シリーズ4回目です。患者さんの病状や、今の段階、今後の見通しなどを説明するときに、医療者がよく使う言葉を取り上げてみました。
重篤(じゅうとく)
「病状が非常に重い」ということです。「重篤な症状」「重篤な副作用」などと説明があるでしょうが、「非常に重く,生命に危険が及ぶ症状」「とても重い副作用」などの意味であります。類義の言葉で、「重症」「重体」「危篤(きとく)」などがあり、一般的にそう置き換えることもできます。命の危険があることを意味する言葉でもあります。
寛解(かんかい)
「症状が落ち着いて安定した状態」です。病気の症状が一時的に軽くなったり,消えたりした状態を言います。このまま再発しないで,完全に治る可能性もありますが、場合によっては再発する可能性も残ります。再発しないように様子を見ていく時期であり、定期的に検査を受けたり,薬も飲む必要はあります。病気が完全に治った状態だと誤解してはいけない段階で用いる用語です。
予後(よご)
「今後の病状についての医学的な見通し」です。病気の進行具合,治療の効果,生存できる確率など,すべてを含めた見通しです。これから病気が良くなる可能性が高いか,悪くなる可能性が高いかの見通しを指す場合もあります。また、「予後は六か月程度です」と「余命」の意味で使われることもあり、注意が必要です。
「病院の言葉を分かりやすくー工夫の提案」より
神経内科 湊
H25リニューアル正面玄関寄贈絵画ご紹介
作品を描きました永田ケイコ子です。
この作品は、フランス語で『Lumière(リュミエール)(光)』という題で、わたしが生涯のテーマにしているものです。そして今回の絵は、副題を「永遠」としました。
『大海原を背景に明るい未来に向かって歩いている。その先には光輝く未来がある』ということを表現したつもりです。
病院に来られてこの絵をご覧になる方々が一日も早く回復され、また病院に勤務される方々の安らぎになれば、わたくしのこの上ない喜びでございます。
2013年春 永田 ケイ子
編集後記
まずは、内科の池田先生に、末期腎不全患者さんで行う腹膜透析療法について詳細に説明していただきました。患者さんに優しい治療であり、今後拡がっていくことが期待されます。新たな企画として、病棟紹介を始めました。入院される方やお見舞いにおみえになる方々にすこしでも参考にしていただければと思います。また前号に引き続き診療科紹介では、臨床工学科とリハビリテーション科を取り上げました。看護部門では、さらに充実したエキスパートナースを紹介しています。今後益々、チーム医療が発展していくこととなると思われます。シリーズ4回目となる「病院の言葉をわかりやすく」はいかがでしょうか。少しはお役にたっているでしょうか。県立宮崎病院の今をご理解していただけるのに、一助になればと、執筆者一同願っております。
広報委員会委員長 神経内科部長 湊 誠一郎