宮崎県立宮崎病院90周年記念式典
県立宮崎病院は、大正10年10月1日に宮崎県立病院として開設以来、宮崎県の中核病院としての役割を担ってきたところですが、今年、平成23年10月に90周年の節目を迎えるにあたり、これまで御尽力いただいた方々に敬意を表するとともに、次の節目に向けて決意を新たにするため、記念式典を行いました。
記念式典
- 日時 平成23年10月2日(日) 15:00~16:00
- 会場 宮崎観光ホテル 東館3階「緋耀の間」
- 出席者 179名 (1)来賓(19名) (2)招待(20名) (3)主催者(140名)
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次第
(1) 開式のことば(司会)
(2) 豊田院長あいさつ
(3) 宮崎県知事あいさつ
(4) 来賓祝辞- 宮崎県議会議長
- 宮崎市長
- 宮崎大学長
- 宮崎県医師会長
(6) 感謝状贈呈
- 本松元院長
- 立山前院長
- 本松元院長
- 立山前院長
懇談会
- 時間 16:30~18:00
- 会場 3階「碧翠耀の間」
- 出席者 来賓17名+招待19名+主催者143名 計179名
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次第
(1)開会のことば (豊田院長)
(2)乾杯 (宮崎大学医学部附属病院長)
(3)歓談
(4)90年を振り返って(仮) (豊田院長)
(5)アトラクション (県立宮崎病院 コールフェニックス)
(6)万歳三唱 (黒木県議)
末期腎不全に対する腎移植という治療法
外科 錦 建宏
末期腎不全に対する治療法は血液透析・腹膜透析・腎移植の3つがありますが、日本ではドナー不足という点もあり、そのほとんどが透析治療を受けているのが現状で、現在血液透析を行っている患者さんの数は30万人に達しようとしています。
しかし、最近は免疫抑制剤の改良・副作用の軽減、血液型が一致していないペアでの生体腎移植の確立、ドナーへの負担軽減(鏡視下手術による小さい傷での腎臓摘出)、より詳細な術前検査の向上(術後拒絶反応の予測がある程度可能)などにより、日本の腎移植の施行数は徐々に増加し、2000年で749件であったのが、昨年2010年では1484件と倍増しており、腎移植のニーズは著しく増加しています。また、その成績も、主には免疫抑制剤の向上によるものと考えますが、1990年代前半では5年生着率(移植5年後に移植した腎臓が働いているかどうかの割合)は80%程度でしたのですが、2000年後半では95%程度に向上しています。
県内唯一の移植施設である当院では、その件数は少ないながらも、2010年4例、2011年5例と献腎移植、生体腎移植を安全・着実に行っており、みなさん元気に外来通院・社会復帰しております。当科では、ドナーさんの負担軽減のため、生体腎移植のドナー腎臓摘出手術は鏡視下手術で行っており、傷の痛みも少なくドナーさんは約1週間程度で退院しています。また、最近増えてきている透析治療を介さない腎移植(先行的腎移植)も積極的に行っており、血液型が一致していないペアでの腎移植にも対応可能な状況にしています。
外科医一同、今後ニーズの増えるであろう腎移植に対し、患者さん・ドナーさんにより負担の少ない高度な医療を提供できるように日々研鑽を積んでいきたいと考えております。
新生児センターNICUの紹介
NICU 河野 慶一郎
NICUとはNeonatal Intensive Care
Unitの略称で新生児の集中治療を行う施設です。病的新生児や未熟児の治療をする病棟で、宮崎市には大学病院を含め4つのNICUがあります。現在、県立宮崎病院NICUには年間に100~120名程度の新生児の入院があり、おおよそ半数が県立宮崎病院で出生した新生児を残りの半数が一般の産婦人科で出生した後に異常が見つかったため新生児搬送していただいた患児を管理しています。
県立宮崎病院NICUの特徴としては全国のNICUと比べて病的新生児の入院比率が高い事で、特に出生後に呼吸がうまくいかなかったり、心雑音やチアノーゼといった症状を持って生まれてきた赤ちゃんが元気に両親のもとへ帰ることができるようにサポートしています。
出生後に治療が必要な赤ちゃんは、すぐにお母さんと離れてNICUに移されます。母子分離を余儀なくされるお母さんや、その御家族の心配・不安は大きなものになると考えます。私たちのNICUではその心配・不安を少しでも取り除くことができるように早期からのタッチケアや母乳育児の推進に取り組んでいます。
その後の成長・発達も重要で、NICUを退院した赤ちゃんのフォローアップは小児科外来で入院中の主治医が引き続き行っています。少子化にともない、初めての出産・育児の割合が増えていますので入院中に指導を行ったドクターに気兼ねなく育児に関する質問ができる環境や機会を作っています。
誕生した小さな生命が元気に育ち、ご両親が育児の喜びを感じていただけるよう、それぞれの赤ちゃんの成長・発達段階に応じた優しいNICUを提供できればと考えています。
小児外科とリンパ管腫
小児外科 村守 克己
当院小児外科は標榜科としては2011年4月からですが、院長先生、下薗先生が早くから担当され、現在でも指導を仰ぎながら日々の診療に当たっているのが現状です。腹腔鏡下のヘルニア修復も各施設に比べ早い時期から導入され、以前より他の小児外科施設にひけをとらない診療実績です。今更私がご紹介するようなトピックスはありませんが、小児外科にとってもっとも重要な課題である、患児のQOLに大きく関与する疾患の一つリンパ管腫を御紹介します。
本来リンパ管腫は頬や首,脇の下などによくできるリンパ液の溜まった大小の袋からなる良性の腫瘍で、先天的に見られることが多く、リンパ管の形成異常とも考えられています。良性ですが大きくなることが多く,場所によっては生命に危険をおよぼす場合があります(学会ホームページより)。Vascular
malformationの一病型に分類され、海綿状タイプではlowflow
typeの静脈奇形との鑑別が困難な場合もあります。根治性が低く治療に難渋する症例が多い中 昨年10月中旬に、厚労省難治性疾患克服研究事業のリンパ管腫研究班による「リンパ管腫の重症・難治性度診断基準」作成のための全国調査がようやく始まりました。
悪性化例の報告はありますがきわめてまれで、体表部のものは主に美容上の問題から治療の対象となります。体腔に生じたものは症状が出ない限り気づきません。当科昨年4月~本年1月までの10ヶ月間の担当症例を示します。キャリーオーバー症例もあり如何にQOLに影響のある病気かがわかると思います。以前は,手術で取り除くことが治療の原則でしたが,合併症を考え、嚢胞状腫瘍では硬化療法が第一選択です。硬化療法は当科ではピシバニールを用いていますが海綿状タイプでは効果が期待できない場合が多いようです。しかし最近ピシバニール自体が腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する可能性も示唆され、積極的に使用しています。
当科リンパ管腫症例
年齢 | 部位 | Type | 臨床経過 |
---|---|---|---|
1M | 腸間膜 | 嚢胞状 | 小腸軸捻転にて緊急手術 |
2M | 左胸壁 | 嚢胞状 | 硬化療法にて縮小 |
1Y | 右陰嚢~後腹膜 | 嚢胞状 | 2度の嚢胞内感染で自然縮小寛解中 |
2Y | 左腹壁 | 海綿状 | 経過観察(治療希望なし) |
4Y | 前胸部 | 嚢胞状 | 内部出血を繰り返し縮小 |
7Y | 右胸壁 | 海綿状 | 硬化療法効果なし(不変) |
8Y | 左右後腹膜 | 嚢胞状 | 急性腹症で発症後自然軽快→経過観察中 |
8Y | 右後腹膜 | 嚢胞状 | 急性腹症で発症保存療法で症状消失 |
31Y | 腹腔内 | 嚢胞状 | 8歳時から手術を繰り返すも治らず→不妊症 |
図 嚢胞状リンパ管腫ピシバニール硬化療法(1回)の効果
硬化療法前 硬化療法直後1日目(腫脹) 1ヶ月後(縮小)
エキスパートナース御紹介
救急看護認定看護師 図師 智美
救急病棟において、危機に瀕した患者様・家族の方々に対し看護実践を行っています。
その他、救急看護に関する教育・指導、災害医療に関する訓練・研修にも力を入れています。日本DMAT(災害医療援助隊)隊員です。
皮膚・排泄ケア認定看護師 中村 公美恵
床ずれや人工肛門・人工膀胱・失禁に関る看護を専門とし、皮膚や排泄に問題を抱える患者様やご家族に対して病棟や外来でケアを提供しています。様々な医療スタッフと連携し、看護の質向上を目標に活動しています。
がん化学療法看護認定看護師 仲田 恵美
私は、外来化学療法室の専任看護師として、がん治薬物療法に伴う副作用や生活変化に関するケア支援を行っています。これからも、院内において他職種と協力し、患者さんにとって安全で快適な治療環境を提供する努力をしていきます。
集中ケア認定看護師 本田 美紀
ICUを主な活動の場としていますが、院内で呼吸ケアが必要な患者様を対象に、医師、臨床工学技士、理学療法士とともにサポート活動も行っています。チーム医療でより良いケアを提供していきたいと思います。
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 清 博美
脳卒中患者さんの入院時より退院後の生活を考えた上で、病態予測や重篤化回避,合併症や再発予防,早期リハビリテーション等を行うための知識・技術を習得した看護師が脳卒中リハビリテーション看護認定看護師です。
感染管理認定看護師 麻生 静
健康に影響を及ぼす微生物から患者さんやご家族、職員の安全を守るために病院内での感染対策を担当します。手洗いや咳エチケットの啓発、耐性菌の検出状況確認などをおこなっています。
医学用語 「病院の言葉をわかりやすく」
今回は3回目です。診療の場において、ドクターの説明の中でよく耳にはするが、なかなか意味が掴みがたい横文字3つを取り上げました。
「インフォームドコンセント」(納得診療、説明と同意)
治療法などについて,医師から十分な説明を受けた上で,患者さんが正しく理解し納得して,同意することです。患者さん中心の医療,患者さんが自ら選び取る医療において,最も根本にある概念です。診療においては,患者さんの納得が大切であることを前提としています。同意書を作成していただく場合もあります。
「エビデンス」
この治療法がよいといえる証拠です。最近では,治療法が高度になり,薬の種類も増えました。そこで,どういった場合にどのような治療法や薬が、最も効果があるのか,実際にたくさんの患者さんを対象に調査研究を行っています。医師は個人的な経験や勘に頼らず,そうした幅広い調査研究に基づいて,診療をしています。
「ガイドライン」(診療指針、標準治療)
専門医の集まりである学会が検討を重ねて作成したものです。一番新しい信頼のおける研究結果に基づいて,患者さんに最も効果的な診療上の目安が書かれています。この目安を守ることで,医師の学習や経験によるばらつきを解消し,いつでもどこでも標準的な治療を受けられるようになります。
以上から、現在の医療現場では、十分な「インフォームドコンセント」を行い、「エビデンス」に基づいて作成された「ガイドライン」に沿った治療がなされることが多いことになります。
「病院の言葉を分かりやすくー工夫の提案」より
(神経内科 湊)
編集後記
<写真説明>・・命の伝承は、時には微笑ましく、時には厳しいものですね。
県民に寄り添う病院として県立宮崎病院は開業90周年を迎えました。
医療レベルアップはもちろんのこと、「想定外でした。」では済まされない対応を目指して、日々精進しております。
今回のトピックスには腎臓移植をお伝えすることができました。これからも皆様に愛される病院としてスタッフ一同、頑張っていきます。
県立宮崎病院広報委員会 精神科 加藤 和男